2011年07月15日

忘れたくないこと

訪問介護実習でお会いしたみつさん(仮名)のことを書いておきたい。5年も前のことである。忘れたくない、記録として残しておきたいと急に思い立った。お盆のせいだろうか。
みつさんは要介護5で寝たきり。大きな家に一人暮らしの90代中頃。ご主人はとうの昔になくなり、子どもはいない。近所に住む甥がキーパーソンである。1日3回ヘルパーが訪問し、掃除、洗濯、食事などの家事援助とおむつ交換、清拭などの身体介護を行っていた。みつさんは好き嫌いが多く、白身の刺身しか食べなかった。他のものを食べるよう促しても「いや」「嫌いなの」と言って食べない。訪問入浴の日であっても業者が来てから「入りたくない」と言って入らないことが多かった。おむつ交換や清拭、移乗のときは小さな、子どものような声で「痛い、痛い、痛いのいや」と訴えた。みつさんはかつて日本赤十字で看護婦として働いていた。戦争にも行った。戦後は児童養護施設のようなところで働いていたらしい。髪をすいてあげている時など、どこも痛くないときは、看護婦時代の話をしてくれた。実習生である私に対しては、家庭のことなども気遣ってくれた。私の実習担当だったヘルパーさんは、ちょっと表情の暗い人で、いつも心配そうな顔つきをしていたため、みつさんからは、だんなの浮気が原因だと勝手に思われていた。ヘルパーさんに向かって「あのね、男の浮気なんて知らん顔してればいいのよ」「勝手にやってるわ、そう思っていればいいの」「あなたが暗い顔してなきゃいけない理由なんてないの」「気にしないことよ」と言っていた。ヘルパーさんは後で私にこっそりと「みつさんが勝手に勘違いしてるだけ」「みつさんは自分のこと言ってるみたい」「みつさんはだんなさんに浮気されてくやしかったみたい」と話してくれた。ほんの短い間のかかわりであったが、みつさんのことはずーっと心に残っている。今勤務している特養では利用者とのかかわりは「業務」であり、食事介助、排泄介助、入浴介助などは早く速くやることが求められている。それが「利用者優先」なのだと、教える側は明言している。末期のがん患者を救うことはできない。せめてあと少し在籍しているあいだはたとえ役立たずと言われようが、利用者さんと心の通ったやりとりがしたい。金沢は今お盆である。
posted by カイゴのみょんみょん at 08:55| Comment(0) | 実習 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

人は見ただけではわからない

今年の9月で介護の仕事をはじめて5年になる。5年前の今頃は、ヘルパー1級養成講座の実習中であった。ある老健に実習に行ったときのことを書きたい。老健以外に特養、デイサービスなどにも行ったが、正直なところ、実習内容のお粗末さはどこも一緒で、介護というのは、つくづく新しい仕事であり、教育が必要であるにもかかわらず、教育体制というものが全く整っていないのだと実感した。どこの施設も担当職員の言うことは「コミュニケーションとって」だ。「コミとって」と略して言われることもあった。移乗介助など危険なことはさせられないし、職員は忙しくて実習生どころじゃないし、コミュニケーションなら危険もないし、実習生にだってできるだろうという安易な考えがみえすいている。だが、傍から見てなんとなく格好がつくほど話せる利用者というのは多くない。数少ない「話せる利用者」は実習生同士争奪戦である。職員でさえそうなのだから実習生ならなおのこと取り合いになる。ぼんやりしている私は話せる利用者を確保できず焦った。残っているのは無表情に一点を見つめている人、よだれを流したり、口をパクパクしているだけの人、奇声を発しているいる人だけである。それでもボケッと突っ立ってるわけにもいかないので、奇声を発しているおじいさんの隣に行き話しかけてみた。おじいさんは私のほうをしっかりと見て、なにやら言った。何を言っているのか全くわからない。だが、奇声ではなく、「あきらかに私に向かって」「何かを」「話している」ということはわかった。このおじいさんしか私の相手をしてくれる人はいない。私は覚悟を決め、何度も何度も聞き返し、見当をつけた言葉を言ってみた。念ずれば通ずるか?祈れば叶うか?おじいさんの言っていることがわかった。おじいさんは大変な読書家であった。かつて地域の読書クラブに所属しており、そこでは会員がいろんな本を読んで、その感想をみなで話し合っていたそうだ。会員にはいろんな人がいて、会社員や主婦、医者などもいたとのこと。おじいさんはある本を私にしきりに薦めた。ホールの隅にある本棚まで案内し、そこにあった司馬遼太郎の『坂の上の雲』を指差し、いかに面白い本であるかを力説した。ホールにあったのは1巻だけであったが、何巻もあること、自分は全巻読んだこと、あんたもぜひ読むべしとのこと。(『坂の上の雲』がテレビドラマ化されたのはそれから1年後のこと。)びっくりしたなんてもんじゃなかった。もしきちんと話していなかったら、奇声を発するおじいさんとしか思わないままであった。先入観がよくないということはさんざん言われて知っていたけど、ほんとに人は見ただけじゃわからない。今の職場でも同じことだ。話しかけたりかまったりする利用者は決まっていて、みながその人のところに集まってしまう。ごくまれに、実習生が意外な利用者と、それこそ「コミュニケーションをとっていて」びっくりすることがある。なぜってその人には、職員がだれ一人話しかけたりしないからだ。実習生はチャレンジャーだったのか、あるいはかつての私のように窮した末のことだったのか…
posted by カイゴのみょんみょん at 07:53| Comment(0) | 実習 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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